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2008年中国映画の当たり年
文 譚星宇

年末年初、年越し気分がただよい、ショッピングセンターの人の波もたえず、寒い冬に少なからずの活気を添えている。年に一度のお正月映画の戦いもまさにこのとき繰り広げられている。『非誠勿(誠に非ずんば擾すること勿れ)』、『桃花運』、『梅蘭芳』、『葉問IP MAN』……。ほんのわずかな時間のなかでさまざまな人物が現れ、光と影の世界で人生の喜びや悲しみ、離別や出会いを描いて、観衆の笑い声や拍手を得ると同時に大金を稼ぐのだ。

 2008年はいわゆる中国映画のあたり年である。国家広播電影電視総局の最新統計によると、2008年の国内映画市場(農村市場を含めず)の興行総収入は42.15億元という新記録を打ち立てた。2007年より88800万元、26.69%増加し、世界映画市場のトップ10に躍り出た。映画の本数から見ると、中国で毎年撮影される劇映画の総数は400部ほどで、世界第三位の映画生産大国になっている。

 

『梅蘭芳』には中国伝統の京劇の美が表現されている

『葉問』には伝統的な中国カンフーと愛国主義を完全に結合させ、上映時には観衆の喝采を浴びた

お正月映画『非誠勿』は映画館上演の際、大爆笑を引き起こした

『李米的猜想』は現代映画の叙事手法をとりいれ、都市の観衆に愛された

国際的によく知られている章子チャン・ツィイー)が『梅蘭芳』で女主人公に扮している。中国映画は現在でも役者のスター効果を発揮することを重視している

一、     興行成績の奇跡

 中国映画はすでに100年の歴史をもつ。この1世紀の歴史を振り返って見ると、中国映画は輝かしい歴史をもつが、もちろん低迷の時代も経験している。1990年代から、中国映画はしばらく手探りの時代があった。全体の品質が低下し、映画市場の規模も小さく地位もなく、法律制度も整備されておらず、公共サービスシステムも不完全で、それに加えて外国の大作による衝撃、DVD市場の発展などが、みな中国映画の歩みをむずかしいものとした。映画を愛する観衆は、優秀な伝統をもつ中国映画もこのように簡単にだめになるものなのだろうか、と困惑した。

 事実上、中国映画は模索の歩みを止めたことは無かった。ある映画業界のベテランはこのように語る。「中国社会経済の迅速な発展に伴って中国の観客の感覚にも天下を覆すような変化がおこり、このような大きな変化に直面して中国の映画界関係者は手も足も出ないような状態であった。このような陣痛を経て、近年、中国の映画はしだいに色をとりもどしている。そのひとつの指標として、中国の映画市場が日ごとに成長していることがあげられる。20083月、中国社会科学院文化研究センターが発表した『2008年中国文化産業発展報告』のなかで、2003年から、中国映画産業は連続5年間早いテンポで成長しており、製作数量と興行成績で最高記録を打ち立てていると報告されている。2006年、中国で製作された劇映画の総数量は330部という新記録を達成し、2007年には400部を突破して、その成長率は21%に達する。2007年の興行成績は歴史的な30億元を突破し、2006年と比べると30%以上の増加である。増加率は世界映画市場でもトップで、興行成績も世界市場で第11位となっている。

 2008年に入ってから、中国映画市場には優れた作品が続々と登場した。まず『精舞門(カンフーヒップホップ)』から話を始めよう。この映画は二人の男が競争することで友情を深め成長しゆく物語である。映画の監督傅華陽の紹介によれば、映画では正統な少林寺拳法を学んだ陳小春(ジョーダン・チャン)が扮する主人公と、ロボットダンスで有名な南賢俊(ポッピンヒョンジュン、韓国)がそれぞれのグループを率いてヒップホップの激闘を繰り広げるというものである。これは武侠世界を現代に持ち込んだ対決にほかならず、明らかに典型的な香港スタイルの商業映画の特色をもつ。大衆受けする味付けをされ、簡単なストーリーにかえってスタイルの豊富さが浮かびあがる。視覚的効果は強烈で、ストリートダンスという素材が「80年代生まれ」「90年代生まれ」の若者の人気を勝ち取り、ストリートダンスブームを引き起こした。この映画は低俗な「日韓風」の物真似に過ぎないと酷評する者もいるが、上映開始三日間で1千万元の興行収入を突破するという商業上の成功を否定することはできないだろう。たった100万ドルの投資でつくられた低予算映画からすると、これはもう奇跡に近い数字である。

 奇跡といえば、2008年の中国映画の興行収入の奇跡は多くは大作によるものである。『赤壁(レッドクリフ)上』が31600万、『画皮Painted Skin』が23000万、『長江七号』が22000万、さらに『投名状(The arlords』、『功夫之王(ドラゴン キングダム)』『大灌藍(カンフーダンク)』などもあり、さらに今現在まだ上映中の『梅蘭芳』と『非誠勿(誠に非ずんば擾すること勿れ)』もあり、2008年の興行収益が1億元を超えた国産映画は、例年をはるかにしのぐ数であった。『英雄(HERO)』や『無極(THE PROMISE』の頃から、国産の大作は芸術的批判と興行の成功の間の狭い隙間に一本の道を見出しており、中国映画の「大作コンプレックス」はとうとう長年の苦しみから抜け出し、ようやく実りを得て、人に資本という魔力を味わわせることとなった。清華大学の教授で映画評論家の尹鴻の分析によれば、中国の「大作」は最初の何年かは、観客を引き付けるため、投資リスクをへらし、商業的な「盛り合わせ」戦略をとった。それは映画のなかに思想性・芸術性・鑑賞性をすべてもりこむ創作傾向で、このような利に急ぎすぎる創作方法が、中国の映画の健全な発展に影響を与え、大きな投資に一種の「伝染病」をもたらした。しかし、「大作」は中国映画が市場化する必然の結果でもあり、大資本の投入がこの種の映画が市場に占める主導的地位を決定する。ある報道によれば、2008年に入って、中国映画は全面的にある種のアップグレード体制に入った。市場から見れば、前半期の国産映画の総興行金額が初めて輸入映画を超え、そのなかでも国産の「大作」が市場の中心を占めるようになった。春節からゴールデンウィークにかけて上映された『長江七号』と4月の閑散期に上映された『功夫之王(ドラゴン キングダム)』は、おのおので今年上映されたすべての輸入「大作」の興行収入を上回っている。7月に全国で上映開始された『赤壁(レッドクリフ)上』は、国内で31200万という国産映画興行記録を創り出したばかりか、世界中の興行収入をあわせると7億元にものぼる興行成績を収めた。

 興行収入に関していえば、映画監督である馮小剛がかつてこのように巧みに評したことがある。「映画を撮るにあたって、むかしからふたつの基準がある。芸術映画を撮るのならば、国際的な賞を受賞し、腕前が証明できる。商業映画を撮るのならば、高い興行収入を得られれば、それでよし。一番だめなのは、そのどちらでもないものである。」

 

二、     芸術と商業

実際には映画界からいわせれば、芸術性と興行成績の関係はそんなに単純なものではない。芸術性と興行成績は相反するものではなく、多くの素晴らしい、かつ席が売れる成功作品もあり、興行成績が飛びぬけてよい商業映画でも驚くべき芸術的成功を収めているものもあり、ハリウッドの監督であるバスター・キートン、アルフレッド・ヒッチコック、ジョン・フォード、ハワード・ホークスなどの作品がそれを証明している。きわめて芸術的な映画でも、商業成績とは完全に無縁というわけではない。アメリカ映画史家のデヴィット・ボールドウェル氏はこのように語っている。芸術的映画は全世界の大小の映画祭で認められる必要があり、審査委員が気に入り、賞を得て帰還しようものならば、国家的な文化の希望の星として、政府や基金などによる賛助機構がその芸術的映画の支持をきめ、賞や是認を獲得することができる。このため、映画祭ネットワークはまるで大衆映画市場のようになり、ひとつの映画制作・発給・放映のルートとなり、これもまた市場により方向性を決められ、芸術的映画の伝統や類型、表現手法にも強い影響を与えるのである。

 映画界の人々は2008年の低予算による代表作を「李米的猜想(李米の推測)」だと考えており、興行成績は1000万ほどでしかなかったものの、その芸術的成功が注目の的になっている。何人かの普通の人々の運命が織りなす、さまざまな次元の、きめの細かい理知と情感、そして傲慢と偏見の物語で、入り組んだ糸の背後には、さらに大きなサスペンスが……。映画評論家尹鴻は、「李米的猜想(李米の推測)」の成功の鍵は、よいストーリーにあるとしている。このほかにも、「李米的猜想(李米の推測)」は現代映画の魅力をもっている。中国のほとんどの監督は時系列による物語叙述方法をとる。複数のストーリーがからみあっていようとも、その複数のストーリーがひとつの大きな時系列のストーリーを作り上げているのである。しかし、「李米的想(李米の推測)」では、時系列の手法がとられていない。出だしから、主人公を演じる周迅のタクシーの後部席に座る人がころころとかわり、これは現代的な手法による映画だということがすぐにわかる。これが「80年代生まれ」、「90年代生まれ」の若者がこの映画を受け入れたひとつの大きな原因だろう。尹鴻は現代の中国映画の叙述手段はとても遅れているが、この映画の叙述手法はかなり高度な水準に達していると考えている。

 現在上映中の『梅蘭芳』を例にとっても、中国映画の商業的成功と芸術的成功は共存できることを証明している。前作『無極(THE PROMISE』のパロディーがネットで公開されるなど、インターネットで口汚く罵倒されていた監督陳凱歌も、これによりふたたび自分の尊厳を取り戻した。『梅蘭芳』は非の打ち所がなく製作され、しっかりと宣伝され、よい評判と興行成績を勝ち取った。中国宣伝部文芸局局長楊新貴はこれを「社会効果・経済利益と芸術的効果という三つの収穫を得た作品」と称した。『梅蘭芳』は陳凱歌の失地回復の作品となり、ストーリーといい、リズムといい、芸術的内容といい、すべてにおいて一流であり、2008年の中国映画でも大作といえる重要度をもつ作品であると評論しているメディアもある。銀幕の上での梅蘭芳と孟小冬がその心の関係を絶てずに懊悩していたとき、あの耳になじんだ梅流の歌声がろうろうと響きわたり、人生が芝居のようなのか、芝居が人生のようなのか、人を感嘆させるのである。

 しかし、もっともよい例といえるのは、台湾の作品『海角七号』であろう。この資金不足のために何度も挫折しかかった低予算映画は、台湾映画の興行成績の奇跡を生み出した。大都市台北に住む売れないミュージシャンである主人公が、何度かの挫折ののちにとうとう故郷の田舎に帰って新しい生活を確立するというもので、使い古されたプロットながらも、今までの映画にはほとんど見られなかった台湾南部の郷土や人情が描き出され、濃厚な郷土の息吹が感じられる作品となっている。しかし、ときにグローバル化と現代化の影がちらつき、都市と田舎の対立のなかで引き裂かれた情感や生活が、見る者の心を打つ。ある映画評論家は「中国の主流である大作の未来にひとつの際立った実例を提供した」と語る。この映画は2009年春節以降に中国大陸で公開されるとのことである。

 

三、商業化への道

 2008年は中国映画の当たり年となり、これは中国映画の商業化がすでに初期効果をみせているのを証明しているだけでなく、商業化への道がすでに後戻りできないところまで来ていることを示している。日増しに厳しさを増す世界経済のなかで、映画関係者は2009年の中国映画市場に対し楽観的な気分さえもっているが、その理由のひとつとして、映画はそれらの深い危機に陥っている人々に一時の現実逃避場所、暖かさと刺激に満ち、人々の情感の需要を満足させてくれる避難所を提供する、というものがある。もちろん、それにはよい映画があることが前提となる。

 国産映画の08年の好成績に対し、一部の人は広播電影電視総局が導入した外国の大作があまりにも少なかったためだ、と考えているが、よく分析してみると、そういうわけではない。2008年の前半期には、アメリカ興行成績がトップ10に入った4つの映画、『アイアンマン』、『ハンコック』、『カンフーパンダ』、『ナルニア国物語第2章カスピアン王子の角笛』などが中国で公開されたが、興行成績はどれも振るわなかった。アメリカのアニメーション映画『カンフーパンダ』の主人公のパンダ、ポーはカンフーには強いものの、カンフーの王、ジェットリーとジャッキー・チェンのコンビ(訳注:すなわち中国映画)にはかなわなかったのだ。ある分析では、今年のハリウッド映画で最もすぐれたものでもアメリカ本土で約5000万ドルの興行成績でしかなく、大部分の映画は23000万ドルであれば悪くない数字であったという。一方で『赤壁(レットクリフ)上』は3億元以上の興行成績があり、5000万ドルとほぼ同等に考えてよく、ハリウッドの大作と同じ舞台で競争できる中国の大作は、すでに市場での自分の地位を確立しているといってよいだろう。今後しばらく、国外の映画は中国国産大作映画の強い阻止を受けることになるだろう。

 ただし、商業化は大がかりな製作を意味するものではない。一般の商品にぜいたく品と一般消費財があるように、商業化された映画市場には、大手の大作以外にも、特色をそなえた低予算による作品も同じように映画の観客を引き付ける。事実上、2008年中国映画の最も突出した特徴は、さまざまな特徴をもつ豊富な作品群にあり、戦争叙事詩に『赤壁(レットクリフ)上』、人物伝記に『梅蘭芳』、愛情コメディーに『桃花運』、『十全九美(Almost Perfect』、『愛情呼叫転移2(コール・フォー・ラブ)』、都市ミステリーに『李米的猜想(李米の推測)』、『彼岸』、スリラー映画に『保持通話Connected』、『証人』、カンフー映画に『剣蝶Butterfly Lovers』、『葉問(IP MAN』、オカルト映画に『画皮Painted Skin』、アニメーション映画に『風雲決』、『葫蘆兄弟 (ひょうたん兄弟)』……。中国映画市場の細分化はいままさに始まったところで、比較的安定した観衆と各自の代表作を育て上げつつある。純粋な商業的視野から見れば、これらの中小投資による映画はコスト回収率がさらに高く、わずか数百万元の投資によって作られた『十全九美』は、実に意表をついたものであった。華誼兄弟伝媒股份公司の王中磊総裁によると、過去何年か、中国の映画市場の興行成績が1億元を突破した映画は8部あったが、続く1万~2000万元の作品は実にすくなく、トップ10以外はみな1000万元以下の興行成績の作品であった。しかし、2008年の状況はかなりよく、たとえば『十全九美』は最大のブラックホースで、オリンピック期間にもかかわらず、5000万元の興行成績を勝ち得た。中規模の映画の投資コストは増えず、投資回収率はアップしており、これは映画投資機構からいわせると、とてもよいニュースである。

 しかし、商業化は万能の薬ではなく、一部に商業化によって生まれた障害もあり、これには警戒を強めなくてはならない。馮小剛のお正月映画は従来広告を埋め込むことで有名であったが、『非誠勿擾』のなかに埋め込まれた広告の数は多く、人を呆れさせるほどだった。馮小剛は資金調達のためだと自己弁護するが、商業作品であろうとも、広告作品ではなく、その割合をどの程度までにおさえるか、中国映画界の人々の良識が問われるところである。

 2008年は過ぎ去った。10年前、馮小剛が彼の初めてのお正月映画である『甲方乙方』のラストシーンで、主人公葛優が語るセリフ「1997年は過ぎ去った。私はその年をとても懐かしいと思う」が思い出される。中国映画から言わせると、2008年は疑いなく、懐かしむに足る1年であっただろう。

 懐かしさは希望を生み出す。2009年の中国映画はいったいどのような楽しみをもたらしてくれるのだろうか。われわれはそれを大いに期待している。

 

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