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山奥に響くトン族の歌
文と写真 欧陽昌佩

農閑期に、娘たちは鼓楼に坐って、トン族大歌を歌う。トン族は一日も歌を欠かさない。

孫にトン族大歌を教えるトン族の歌師、薩秋紅さん。黎平県には彼女のような歌師が100人以上いる。

重要な活動があると、村全体で鼓楼を囲んで大歌を歌う。

黎平岩洞村はトン族が集中して居住している村であり、トン族大歌の発祥地でもある。

トン族は「ご飯は体を、歌は心を養う」ことを信じている。歌を歌うことを食事と同様に大切にし、歌を精神の糧と見なしている。彼らは歌が知識や文化であると考え、歌が多く歌えるものは、知識人だと見なされる。トン族はどの世代も歌がすきで、歌を学び、歌を歌うことを楽しみとしており、歌がうまく、たくさんの歌が歌えることを誇る。人々は歌で自分の感情を表現し、歌で自分の喜怒哀楽を訴える。子供は幼いころから歌を学び、両親は家で歌を教え、「歌師(地元の人々に歌を教える人)」は村を駆け回って歌を伝授する。合唱はトン族の伝統となっていて、それは代々伝えられたものだ。トン族地区で「歌師」とは、社会で公認された最も知識のある、道理がわかる人であり、人々に非常に尊敬される。

トン族大歌はトン族の歌の中でも最も優れたもののひとつである。一人で歌うトン族の歌と違い、4人以上の人がともに歌う合唱で、指揮や伴奏はない。これらの歌は千百年にわたって、山奥で生活し農耕に従事してきたトン族が、代々伝えてきたものである。鳥や虫の声、高山を流れる水の音などの自然の音の模倣が、トン族大歌の大きな特色である。1曲は短いもので十数段落、長いものは百段落、数百段落にもわたる。

トン族大歌は鼓楼大歌、柔声大歌(抒情大歌とも訳される)、叙事大歌、論理大歌などに分かれている。主な内容は自然や労働、愛情や友情を歌ったものである。そのため、大歌が歌われるトン族の村には、けんかや窃盗など事件はほとんどない。

現在、トン族大歌は貴州省の黎平、从江、榕江、三江の4つの県と隣接地区で盛んに行われている。祭りの日やめでたい日、何らかの民俗活動がある日に、トン族は鼓楼の内部あるいは広い空地に集まってトン族大歌を歌う。ふだんも隣村からの合唱隊をお客として迎えるときは、村の「合唱隊」が隣村の「合唱隊」を招待して、夜に鼓楼へ行ってともに歌を歌う。

正式に歌を歌う時、主催者と招待者の男女混成合唱は、左右両側に分かれて坐って、主催側の合唱が先に歌い、歓迎と敬意を表し、相手方は『鼓楼を賞賛する』を歌う。挨拶の意味をもつ歌が終って初めて正式の大歌合戦に入る。鼓楼を賞賛する歌が欠くことができない礼儀として対歌のスタートとされるのは、鼓楼を賞賛することがその主人への賞賛につながると考えられているからである。男女の歌手は歌っている時、伝統的に坐ったまま歌う。正式に大歌が歌われると、非常に長い時間がかかり、徹夜になる時もある。村の老若男女が「合唱隊」の周りに集まってそれを聞く。

トン族大歌はトン族の民間にどのくらい伝えられているのか? ここに人が住みはじめたころからトン族の歌はあったと、85歳のトン族の女歌師、薩秋紅さんは語る。

中国の12世紀の文献によれば、宋代以前にトン族大歌は形成されていたようである。明代以降、その歌唱の形式と多声部のハーモニーは相当に成熟したレベルに達した。トン族大歌は千年もの歴史があるが、この特色ある民族音楽は長期にわたって山林の中にひっそりと隠れており、1950年代にようやく発見されて、記録された。

198610月、黎平のトン族の娘たちからなる一行9人がはるばるフランスまで渡り、パリ秋季芸術祭に参加して、パリのシャイヨー宮でトン族大歌を披露したとき、満場の喝采をあびた。それ以降、黎平のトン族大歌はフランス、オーストリア、ロシアなどの国で相次いでセンセーションを巻き起こし、「清い水のように輝く音楽」と賞賛された。

薩秋紅さんは小さな頃からトン族の歌を歌い始めた。成長するに従って、彼女の歌えるトン族の歌は増えていった。声もふくらみを帯び滑らかになり、歌唱のテクニックにも熟練した。まもなく、彼女は遠くまで名を知られている有名な歌手から人々の敬愛を受ける歌師に指名された。祝日の前になると、村々は先を争って彼女を招待し、トン族の歌を教えてもらう。

数十年にわたって、彼女が教えたトン族の歌手は、全国各地で歌師になったり、トン族の歌手となったりしている。

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